彼に促され、みんなでお馴染みのメロディーをなぞる。
正直、歌よりも花火の弾ける音の方が存在感があったのだけれど、細かいことは気にしない。
名前を呼ぶところで、他のみんなは「近江」、私だけ「近江くん」、で二音零れてしまった。バラついたのに、歌い終わった後、霧島くんは「息ぴったりじゃん」と優しいフォローを入れてくれる。動画を撮り終えた彼は、スマホを操作しながら続けた。
「今の動画、みんなに送っとくわー」
「別にいい」
「何でだよー、照れんなって。思い出思い出」
照れてない、いや照れてる、いらない、送っとくから、と二人の攻防戦がしばらく継続していた。
霧島くんは近江くんの肩に腕を回して、まだ何やら言い募っている。近江くんは前と同じく「暑いから離れろ」とは抗議するものの、振り払うことはしない。そこに彼の人柄がよく表れている気がした。
「男子共! いつまでじゃれてんだ、うちらで花火全部やっちまうぞ!」
「やっちまうぞー」
薫の威勢のいい呼びかけと、雫の若干気の抜けた同調が重なる。
その言葉通り、二人はいそいそと花火に着火していく。
しゅー、ぱちぱち、じゅわじゅわ。
花火は色鮮やかで、視覚はもちろん楽しい。だけれど、音もよく聞くと多彩で、目を閉じても瞼の裏に夏の風流が浮かんでくるようだった。



