教室で静かに一人、読書に耽る近江くん。誰からも干渉されたくない、誰にも干渉したくない。それが彼の基本理念かと思っていたけれど、今こうして実際に話しているのを見ていると、脳内で築いてきた私の勝手な彼へのイメージとは、微妙に食い違っていた。
「でも、俺らがいるじゃん」
孤独な隙間に、安心を与えてくれる声。かつて私が救われたのと同じように、いま霧島くんは、近江くんへ穏やかに笑いかけていた。
「わざわざ夏休み中に会って、連絡取って、集まってるよ。俺は、近江の誕生日祝いたいって思ってるけど?」
眼鏡の奥の瞳が揺れる。彼の掛けている鍵が一つ、外れた音がした。
「私も、そう思う」
薫が口を挟んだ。
「うん、私も」
と、これは雫だった。
私もどうにかして伝えたくて、勇気を振り絞る。
「近江くん、誕生日おめでとう……!」
緊張した。だけれど、これはいま言わなければいけないと思った。
みんなからの言葉と視線を受け取って、近江くんが呆気に取られたように黙り込む。
「……は、」
やがて耐えかねたのか、彼は息を吐いた。それから固く結ばれていた口元を解いて、ぎこちなく笑う。
「そんなこと言うの、あんたらくらいだ」



