渾身の力を振り絞って叫んだ。途端、心の重りが外れたように体まで軽くなって、一気に彼の近くまで駆け寄る。
手を伸ばした。霧島くんの指に触れたと同時、後ろから強い風が吹いて、髪が宙になびく。

弾かれたように振り返った彼が、ようやく私を視界に入れてくれた。霧島くんの目はこれでもかというほど見開かれていて、呆然と立ち尽くしている。

真っ直ぐ、清らかな瞳。こんなに近くで、こんなに真正面から、彼の顔を見たのは本当に久しぶりだった。何だかそれだけで泣きそうになる。

霧島くんはしばらく黙っていたけれど、やがて柔らかく微笑んだ。


「……出雲か」


そう呟いた彼が、ゆっくりと私を見下ろしている。
喋るのが苦手な私の言葉を、待ってくれているのだと思った。


「ご、……ごめんね。何でもない、何でもないの」


安心した。自分の中にあった得体のしれないざわめきが、静かに収まっていく。

霧島くんは答える代わりに、体の向きを変えて緩やかに歩き出した。私も慌てて横に並ぶ。
今度はさっきと違い、まるで私に寄り添ってくれているような歩調だった。

夏休みはあと半分。私のやりたいことも、あと半分。
少しずつ暗くなってきた空の下、暖かく灯る提灯を見つめて、私は残された時間の価値を受け止めていた。