この夏、やり残した10のこと



――私が初めて霧島くんと会ったのは、中学三年生の春。始業式の日だった。

いつも病院にいてばかりで、学校へ行くのは新学期が始まる日と長期休暇の前の日と、終業式の日くらい。名簿にはあるけれど、席にいることは片手で数えられる程度。それが私だ。
きっとクラスの人だって私の顔を覚えていないし、行事の時に私を頭数に入れることもないに等しいのだろう。

春は、新しい季節は、いつだって悲しかった。
周りが期待に満ちた顔で出会いを構築していく横で、私は一人、静かにやり過ごさなきゃいけないから。教室で友達をつくっても、私はまた、病院に戻らなきゃいけないから。

何より、忘れられてしまうのが怖いから。だから、最初から記憶に残らないように、ひっそりと。


「具合悪いの?」


俯いて机の木目を眺めていると、不意に左隣から声が掛かった。
びっくりして顔を上げた先、見開かれた瞳がしっかりと私を捉えている。こんなに真っ直ぐと見据えられたのは、いつぶりだろうか。もしかすると初めてかもしれない。


「出雲、だっけ。大丈夫?」


覚えてくれている。私の名前を。
先程行われた自己紹介の時間では、ぐだぐだで声が小さくて、みんなつまらなさそうに私を見ていたのに。

咄嗟に言葉が出てこない。唇を動かすだけで一向に話し出さない私に、彼は「ああ」と苦笑した。


「俺、霧島。霧島斗和。クラス同じになんの、初めてだよな」