金魚すくい、クレープ、やきそば、かき氷。ポップな文字が布地に並んでいる。
ピンクの可愛らしい浴衣を着た小さい女の子が、ヨーヨー片手に私のすぐ横を通り過ぎていった。


「お祭りなんて久しぶりに来た」


そう呟いたのは雫で、彼女は周囲の屋台を興味深そうに見回している。


「えっ、うそぉ。私、毎年行くよ」

「行く相手いないし」

「ちょ、悲しいこと言わないでって。ほら、今年はいるじゃん?」


薫が言いつつ雫の肩を叩いた。その反対の手には既にチョコバナナが握られていて、謳歌する気満々のようである。

私がこの夏にやりたいことの五つ目は、「お祭りに行くこと」。
街はずれの川沿いにある公園。今日はみんなと一緒に、そこで行われる夏祭りに来ていた。


「あれ、てか近江いなくない? どこ行ったんだろ」


ぱくり。チョコバナナを一口かじって、薫が頭を左右に振る。

言われてみれば確かに、近江くんの姿が見当たらない。ついさっきまで「人混みは疲れる」と不服そうにしていたはずだ。


「あー、さっき『すぐ戻る』って言って何か買いに行ったみたいだけど」


というのは霧島くん情報で、それを聞くや否や薫が声を上げる。


「えーっ! それ霧島が止めないと駄目じゃん。どうすんの、近江が勝手に帰ったら」

「俺のせいかよ」