この夏、やり残した10のこと



「でも、生き地獄って言うじゃん、たまに。安楽死って言葉もあるじゃん、世の中には」


誰の方も見ずに、雫は手すりに腕を乗せたまま、淡々と述べる。そこに薫の発言を批判する色は含まれていなくて、単に事実を挙げただけ、といった様子だった。

そうだね、と。柔らかい肯定が落ちる。お姉ちゃんの声だった。


「生きなきゃって思うのも、死にたいって思うのも、『生きたい』って思えてないからじゃないかな。楽しく生きられている時って、わざわざ生死について考えたりしないから」


それでも私たちの日常には今日も息苦しい人、死んでしまいたい人があふれていて、平和なんてまだまだ遠いのだと思う。何をもって平和と言うのかなんて、分からないけれど。


「霧島くんは、どう思う?」


不意にお姉ちゃんが彼の名前を呼ぶから、驚いてしまった。
みんなの視線が向く。霧島くんは一瞬固まって、それから困ったような笑みを浮かべた。


「……俺は運命的なもの信じてるタイプです。近江の話聞いたからってわけじゃないけど、俺らが生まれるのも死ぬのも、全部神様が決めたことだからしゃーないか、って」


難しい話だ。私たちは今、どんな文章問題や計算問題よりも難しいことを話している。