雫に呼びかけられたのが意外だったのか、近江くんはやや虚を突かれたように答えた。
「“話”?」
横で聞いていた薫が首を傾げる。
ゆっくりと夜空を見やって、近江くんは話し出した。
「十二星座はギリシャ神話がもとになってる。神々が集って暮らしていたオリンポス山に、ゼウスという全知全能の主神がいた」
「あー、前にそういやギリシャ神話の本読んでたよね」
薫の相槌に、彼が頷く。
「ゼウスは浮気性で、愛人も多かった。ヘラクレスはゼウスが愛人との間に授かった子供で、ゼウスの正妻はヘラクレスを恨み憎しんでいた」
ゼウス最低じゃん、と雫。ヘラクレス可哀想だな、と霧島くん。
私は近江くんがしてくれる話の内容よりも、近江くん自身がいつになく楽しそうだったから、そのことの方が気になってしまう。
「ヘラクレスはそのあと結婚して子供を授かる。ゼウスの正妻はヘラクレスに狂気を吹き込んで、自分の子を殺させるんだ」
「ええっ……」
いつしかお姉ちゃんまでもが近江くんの話に集中していたようで、口元を手で押さえながらリアクションを漏らしていた。
「正気に戻ったヘラクレスは、贖罪のために神託所へ赴いた。そこで課せられたのが、『十二の功業』」



