その後、警察に電話を掛けた父親は玄関のドアを限界まで開け、救急車やパトカーのサイレンの音が近くなるのを耳で聞きながら、裸足のまま呆然とその場に立ち尽くした。

頭の整理が追いつかなかったが、平常心を保つことしか、今は出来なかった。

パトカーから降りてきた警察官が2人、父親に声をかける。

「大丈夫ですか?お嬢さんは、どこで?」

「………2階の寝室にいます」

やけに冷静な父親は警察官を2階にある彼女の寝室へと案内する。

その後、発見した時間帯やそれまでの経緯、最近娘に不審なこと、トラブルは無かったかなど尋ねられたが、父親は娘のことが何ひとつ分からず、答えることができなかった。

父親が答えられたのは彼女の現在の職場先、年齢、誕生日のみであった。

足早に検視鑑定が始まり、家の周りに人だかりが集まる。

パトカーが何台も自宅の前に大きなサイレンを鳴らしてやって来ては停まった。

音も聞こえるし、警察官や救急隊の走る音や尋ねられる言葉も理解できるが、視界だけがぼやけた。

困惑しながらも、別居中ではあるが、彼女の母でもある妻に連絡をしようと決意する。

しかし、彼女の両親は2年前から別居状態であり、父親は妻の連絡先を知らず、居場所さえも分からず、途方に暮れる。

もし、この事を知ったら………。

絶望を感じるだろうと思った父は息をのんだ。