短大卒業後、20歳の時に新卒で不動産業の会社に就職した。
その後、わたしは営業部に配属されることになる。

社内にいるたくさんの上司や同僚、後輩、取引先、役職と出会い、社会人としてがむしゃらに仕事に取り組んでいた。
入社し、2か月の長い期間の中で座学や社会人としての基礎知識などを学んで、いざ営業部に配属された時、わたしは彼と出会うことになる。

もしも人生をやり直せるなら、あの会社は選ばない。
でも、もしもあの会社を選ぶことしかできなかったら。
わたしはあの人の下で部下として働くことをまた選んでしまうと思う。

「大矢です。今日から石田さんの直属の上司になるから、分からないことがあれば何でも聞いて」

3歳年上で左手の薬指に結婚指輪が見えた。
大矢さんへの第一印象は"近づかない方がいい人"だった。
直感でピンときていた。
しかし、彼はそんなことをかき消すかのように仕事ができる人だった。
出来損ないのわたしは覚えや理解に結構な時間がかかったが、努力すればできることを知っていたから、毎日毎日分からないことは大矢さんに聞きに行った。
そんなわたしを大矢さんはいつも優しく受け入れてくれた。
きっと鬱陶しかっただろうし、残業になるから嫌だったと思う。
でも大矢さんは、いつでも最後までやり遂げるまで目を離さず見届けてくれる人だった。
それはわたしにだけじゃなくて、他の同僚や部下にもそうだった。
皆に愛されて、いつも輪の中心にいる大矢さんが憧れであったし、わたしに後輩ができたときは大矢さんみたいな上司になろうと思ったくらい、彼はわたしの目標だった。