その時、大矢は彼女から初期に言われ続けていた言葉を思い出す。

「大矢さん、関係やめよう。今ならはい終わりで終われるよ…わたしやって何回も言いたくない…でも、もし妊娠してしまったとき、責任取れる?わたしが産みたいって言ったら半分でもお金出してくれる?離婚の話が出たら受け入れられる?今の家族や友人、職場の仲間、もしかしたら関西にさえいられなくなってしまうかもしれへんってこと、分かってる?……大矢さんの今のその地位も名誉もみんなからの信頼も無くなってしまうんやで。みんなに冷たい目で見られるよ………ねぇ………大矢さん………誰ひとり幸せになれないことしてるよ」

大矢はいつも彼女から言われてしまう正論がウザくて、適当に流してしまっていた。

「あー………うん、そうやな」

次第に彼女から笑顔が消え、仕事の意欲も薄れていき、やる気が無さそうに毎日を過ごす姿が目につくようになった。

「仕事とプライベートはわけろ」

そう言いつけたこともあった。





彼は職場の自身の机から動けずにいた。
「気持ち悪い」と聞こえる気がする。
「人殺しだ」と言われている気がする。

後ろ指を刺される日がまさかくるとは。
彼女のことを本当に愛していたし、会社に責められても事実を突きつけられてもいいと思っていたし、覚悟はしていたつもりだった。

彼はこの時、はじめて自身の行いを後悔した。

戻らない命がこの時点でふたつ消えてしまったことを自覚した。

そして会社を辞めることを決意する。