「朝ちゃん………怒ってる?………ごめんね。ずっと来れなくて。怒ってるやんな」

写真たてに飾られている幼少期の朝日の屈託のない笑顔が胸に突き刺さる。

「朝ちゃん、写真全然無いやん………本当はもっと家族写真とか撮りたかったやんな………ちっちゃい頃の朝ちゃん、きっとお父さんお母さんが忙しかったから言えなかったんやんな」

線香の白い煙が上がって、天井に消えていく。

「朝ちゃん、今、3人の子どものお母さんしてるよ。長女は今年で10歳になる。「朝ちゃんはー?」って今でもたまに聞いてくる。朝ちゃんって、子どものあやし方めっちゃ上手やったよね。1回だけ私の家に遊びに来てくれたときのこと、あの子、今でもずっと覚えてるんだよ。すごく楽しかったから「また遊びたいね」ってずっと言ってるの。………子どもができると、成長すると、朝ちゃんが小さい頃、どんなに気持ちを隠して生きていたのか、伝えたい思いや寂しい気持ちがどんなに大きく膨れ上がってしまっていたのか、わかる様になったよ。そんなときは友達として、どうやって接してあげれば良いかもやっとわかったの………。ごめんね………朝ちゃん………ごめんね………ずっと家族のことで悩んでたの知ってたし、何度か勇気を出して吐き出してくれたこともあったやんね………。いつも話を聞いてくれたのに、朝ちゃんの話にどう声をかけてあげたら良いのか全然分からなくて…力になりたかったのに何も伝えられなかった。話を聞くことしかできなかった。力になりたくて、自分のお母さんに相談したら「朝ちゃんが悪いところあるからやろ」って言葉をそのまま朝ちゃんに伝えたこともあったね。ごめんね。すごくすごく傷ついたよね。勇気出して言ってくれたのに……悲しかったよね。ずっと力になってあげられなかった………ごめんね朝ちゃん。ごめんなさい。今もずっと後悔してる。助けられなかったこと。もうこの世にいないなんてやっぱりすごく悲しいよ………朝ちゃん」

麻由はまた泣いた。

30歳になれば、朝日の死に向き合えると思って麻由は地元に帰省した。

5年前、亡くなったことを聞き、旦那に連れられ地元に帰省した麻由は朝日の実家の玄関の前で大泣きしインターホンを押せず、彼女の死に向き合えず、仏壇に手を合わせることも愚か、家に入ることさえも出来なかった。

旦那や家族に支えられ、やっとの思いで彼女の死に向き合えた麻由は彼女の命日を避け、あの連絡を受けた日の5年後の今日、ひとりで来ることを決意し、彼女の実家を訪れた。

止まらない涙が虚しくカーペットに染み込んでいく。