彼女の遺体は通夜も告別式もしないまま、足早に火葬された。

遺体がかなり腐敗していたからである。

家族とすぐに集まれた親戚のみで執り行われた。

彼女の家族が亡くなっている彼女を含め、5人全員揃ったのは5年ぶりくらいであった。

「一緒に焼いてください」と父が持っていた封筒から1枚のエコー写真を取り出し、係の人に手渡した。

「え………なんで?誰の?」

母親の隣にいた彼女の兄が母親に慌てて尋ねる。

「朝日の子やで…。あの子、2年前に赤ちゃん堕してんねん」

「は………?まじで…」

「……前いた会社のひととの子やって」

「えぇ………」

「………遺書にエコー写真も一緒に焼いてほしいってお父さんの方の手紙に書いてあってんて」

「……」

「…会えたんかなぁ…赤ちゃんに…。お母さん、赤ちゃんの分まで強く生きてって言ったんやけどなぁ…」

母親は涙も出ず、ただ茫然と立ち尽くす。

母親は食事も喉を通らず、ただ寝て起きての毎日を過ごしていた。

彼女の顔を見届けることも、顔に触れることもなく、さよならも言わず、重たくて分厚い火葬炉の扉が閉まるのをただじっと眺めた。

父だけが、彼女の最期の表情をみとり、頭を撫で送り出した。

母親はもう立っていられなくて、その場に崩れ落ちる。

呼吸がうまくできない。
息ができない。
苦しい。
悲しい。
苦しすぎて、悲しすぎる…。

「あぁー…朝日…」

その時、涙が溢れ出てきた。
彼女の死を、もう2度と会えないこと、彼女が戻らないということを受け止めた。