捨てられ妻の私がエリート御曹司に甘く娶られるまで

すべてが終わると途端に目眩に襲われた。足元から力が抜ける感覚がして、よろけてベッドに腰かけてしまう。

「里花、大丈夫か?」
「奏士さん、ちょっと目眩がしただけです。ふたりとも、助けにきてくれてありがとう」
「功輔がすぐに連絡をくれた。ずっとロビーに張り込んでいた」
「近くにいるとは伺ってましたけど、同じホテル内にいらしたんですね」

ラウンジはオープンスペースでもあるので少し離れたところでも動向は探れる。連絡しないでも部屋まで駆けつけてくれたのは功輔さんのおかげだ。私が席を立った時点で奏士さんに連絡をしたのだろう。

「里花さん、今、沙織が着替えを持ってきますので」

功輔さんに言われ、私は自分がボタンの飛んだシャツを着ていることに気づいた。
確認したら、今更手が震えてきた。すべて終わったことだけれど、あの瞬間の恐怖と絶望が蘇ってくる。全員のために、何事もなくてよかった。

「……もう、抱き締めてもいいな」

奏士さんが私の背に腕を回し、腕の中に閉じこめた。きちんとした抱擁は先ほどに続き、二度目だ。

「奏士さん、あの」
「これは、功輔に里花の胸元を見せないためだ。深く考えるな」

そんなふうに軽口を言うのだから、私も笑ってしまった。手の震えが少しマシになった気がする。

「社長の大事な女性をじろじろ眺めませんのでご安心ください」

功輔さんが呆れたように言った。