捨てられ妻の私がエリート御曹司に甘く娶られるまで

「嫌か?」
「嫌じゃない……ですけど……。そんなふうに呼ぶのが……久しぶりすぎて……」
「な、一回だけ」

低くささやかれ、私はぎゅうっと目をつぶった。小さな声で呼ぶ。

「そうちゃん」
「……ありがとう、里花。今、すごく抱き締めたい」

我慢をアピールするためか両手を顔の高さに持ち上げ、笑って見せる奏士さん。私は恥ずかしさに耐え、彼を見つめた。

「十年近く離れていたんだ。里花の身辺のこととは別に、俺たちの関係も、もう一度構築し直していこう」
「……はい」

すると、沙織さんが呼ぶ声が聞こえる。

「社長、里花さん、線香花火しましょう!」
「おい、他の花火、もう終わったのか?」

奏士さんの問いに、三人が「はーい」と笑顔を見せた。大袋の花火はあっという間に終わってしまったらしい。

「あいつら、まったく」
「いきましょう」

私はまだ熱い頬を押さえて奏士さんを誘った。