捨てられ妻の私がエリート御曹司に甘く娶られるまで

「今は通院もしていないくらいなんです。でも、子どもの頃から丈夫な方ではなかったので。それを引き合いに出す人たちもいて」
「あいつは宮成商事を継ぐ覚悟がある。不安視する声なんかそのうち払拭できるよ」

奏士さんは請け負って、それから私の耳元にささやくように言う。

「それに里花には俺の花嫁になってもらわなければ困る。宮成商事の後継者は由朗に任せよう」
「奏士さん!」

急な接近に私は慌てて彼から距離を取った。

夜も気温が下がらないので歩けば暑い。だけど、時折ざっと吹きつける夜風は、清々しい心地だ。昨日までよりずっと心がラク。私は横を歩く奏士さんを見あげた。

「本当にご迷惑をおかけしてすみません」
「迷惑じゃない。好きな女を奪うためならなんだってする」

そう言って奏士さんはうつむいた。

「こんなことになるなら、アメリカに渡る前に、里花と婚約をしておけばよかったと悔やんでも悔やみきれないよ。結婚の話を聞いたときも、自分の気持ちを整理するので精一杯で、里花の相手がどんな男かを調べたりしなかった。里花があの男に汚されていないということだけが救いだけれど、心は傷つけられている。俺が馬鹿だった」
「奏士さんが気に病むことではないです」
「里花、あらためて言わせてほしい。好きだ」

奏士さんの言葉に頬が熱くなる。頬どころじゃない。身体中がほてる。