「この前再会したとき、おまえは『幸せだ』と言ったよな。『心配ない』と。それは間違いないか?」

確かに先月、私は三年ぶりに奏士さんと再会した。その時、私は彼に本当のことを言わなかった。自分の窮状は隠し、無邪気を装った。

「里花、言えないのか?」

私は返答に困り、言葉を探して黙ってしまった。なんと説明したらいいだろう。包み隠さず話せば、優しい彼は心配するに違いない。
そこに先ほどの男性と女性が入ってくる。私の前に温かな紅茶とお茶菓子のクッキーが置かれた。

「ありがとうございます」
「沙織と功輔もここにいてくれ。彼女、新婚なんだ。俺とふたりきりだったとなると、あとあと良くない」

奏士さんはふたりに指示してから、私を見つめる。

「すまないが、ふたりを同席させてくれ。俺の信頼する部下だから、里花の事情を聞いてもけして他言しない」

後ろで部下のふたりも真剣な表情でうんうんと頷いている。
行く宛のない私を助けてくれた奏士さんに、嘘はつきたくない。だけど、言えば奏士さんを巻き込むことになる。

「里花、言いづらいことか? でも、俺はこのままおまえを家には帰せないぞ」

奏士さんの親身になった声に、私は数瞬迷ってから口にした。