捨てられ妻の私がエリート御曹司に甘く娶られるまで

そして私もまた離婚は避けたいと思う理由が別にある。これははっきりと奏士さんたちには言わなかった理由だ。

まずは宮成家の両親の立場だ。
旧家・宮成家本家の娘が結婚して早々に出戻ってきたとなれば、親戚筋がうるさい。大叔父大叔母たちは、古い考え方の人たちだ。彼らは私ではなく両親を責めるだろう。本家の在り方に文句をつけるだろう。

さらに、宮成商事の方も問題がある。
私が実家に戻れば、弟の由朗ではなく私を次の後継者にたて、入り婿をしようと狙う人たちがいるのだ。
ひとつ下の弟・由朗は子どもの頃からあまり身体が強くない。
高校時代に大きな病気をして、大学も一年療養を経てから入学した。今はほぼ完治したけれど、その点をあげて由朗より私を後継に押す一派がいたことも間違いない。

だからこそ、私は『宮成商事に勤めるのは結婚までのわずかな間』というスタンスを取り続けなければならなかった。けして、熱心に仕事をし過ぎてはいけなかったのだ。
離婚し私が戻れば、宮成商事にも火だねをまくことになる。

……でも、きっと一番の本音は違う。私は、お嫁入りを喜んでくれた両親と弟を悲しませたくないのだ。
幸せな結婚をした娘がひとりぼっちでみじめに暮らしていると知られたくない。
離婚によって、さらに傷つけたくない。
私は両親と弟が大事で大好きだ。私のせいで、家族が責められたり立場を危うくするのは嫌。
そのためにも私は、こうしてここで形ばかりの妻を演じ続けるのだろう。