「子どもの頃から妹のように大事にしてきたつもりだ。結婚したと聞いて、幸せを願っていたんだ。里花が不幸なら、俺が幸せにする。俺の妻として奪う」
「奏士さん、駄目です!」

私は立ち上がった。思いのほか、自分の声が大きくて驚いてしまうけれど、ここで引いてはいけない。

「郷地京太と結婚したのは私の意志です。どうするかは、私が決めなければならないんです!」
「でも、真っ当な夫婦関係ではないのではないですか? あなたの意志や決定を聞き入れてもらえる状況でもないかもしれない」

功輔さんが奏士さんの代わりに冷静な言葉を返す。私はぐっと詰まったものの、答えた。

「まだ、私の努力が足りないのだと思います。もともと愛人がいたことを見抜けなかったことも、私の呑気な性格のせいですし、京太さんに家庭に戻ってきてもらえるような努力もしていません」
「家に寄りつきもしないくせに、出て行けという男だ。話し合う余地はないだろうし、この先も里花を幸せにできるとは思えない」

奏士さんが険しい顔で私を見据える。

「それとも里花は郷地京太を夫として好きなのか?」
「愛しているのかと言われると、違うと思います。ですが、一度は夫として好きになろうと思った人です。ここで逃げ出しては、両親にも申し訳ないですし、自分自身の努力不足になってしまう気がします」

私は三人に頭を下げた。
これ以上、この優しい人たちを巻き込んではいけない。