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「おはようございます」
目覚めたら知らない天井で、どきりとした。状況を整理するより先に沙織さんの顔が視界に飛び込んできた。私を覗き込んでいる。
私は仰向けのまま「おはようございます」と小さく返した。
リビングに敷いてもらった布団で身体を起こすと、沙織さんのひとり暮らしの部屋を見渡す。今着ているTシャツもジャージも沙織さんに借りたものだ。
「里花さん、少し休めましたか? ゆうべは顔色すごく悪かったから」
「あ、はい。ゆっくり眠れました。ありがとうございます」
「社長から連絡入ってます。オフィスで朝食を食べましょうって」
昨日の出来事がゆるやかに蘇ってくる。外泊してしまった。結婚して初だ。もちろん私が家にいないことすら、夫は気付かないかもしれないけれど。
起き上がって布団を畳もうとする私を制して、沙織さんが言う。
「あらためまして、門司沙織です。昨日一緒にいたのは双子の弟の功輔。私たち、アメリカから奏士社長の下についています。社長、秘書がいないので、一応私と功輔がスケジュール管理も見ています」
「そうだったんですね。私は……奏士さん……三栖社長とは幼馴染で、子どもの頃からよくしていただきました。この度はとんだご迷惑を……」



