「奏士社長、スケジュールはすべて調整しました。結婚式から1週間、誰も社長と里花さんの邪魔はいたしません」

午後のオフィス、書類を俺のデスクに置きながら、功輔が言った。

「ありがとう。頼りになるな、功輔は」

部下の功輔は、まだ二十代半ばだが非常に優秀だ。冷静沈着で仕事が早い。少しとぼけたところがあるが、それはこの男と相当親しくならないと見ることができなかったりする。

「その気になれば3ヶ月くらいフルでお休みを取ることもできますよ」
「その手腕は嬉しいんだが、そこまでされると不安になる」
「普段が働きすぎなので、そのくらいしてもバチは当たらないということです」

功輔の気遣いをありがたく思い、俺は置かれた書類を手にした。
里花がプロポーズに応じてくれたのは昨晩のことだ。離婚から1年、彼女の気持ちが落ち着くのを待ちわびた時間だった。

「しかし、プロポーズから半日で結納と式の日取り、場所まで決めてしまうのはいかがなものでしょう」

スケジュール調整を手伝っておいて、功輔が苦言を呈する。

「少々焦りすぎなのでは? 里花さんが引いてしまいますよ」