「女の子だって。りーちゃんいいお姉さんになれるかしら」
「そぉらよぉ」

よくわからない相槌が返ってきた。彼女は私が仕事を辞めたので、ご満悦でブロックを手に走り周り始めた。そこはママと遊ぶんじゃないの? ママ、手が空いたんですけど。
それにしても、やっぱりこの元気娘と記念日ディナーは厳しい気がする。三回目の結婚記念日は、去年と同じく自宅でパーティーにしようかしら。最近アイスクリームデビューをし、その魅惑の甘さにハマってしまった里衣のために、アイスクリームケーキでも注文して……。

「ただいまー」

玄関で奏士さんの声が聞こえる。里衣が「パパら!」と叫び、ぱたぱた走っていった。ふたりがきゃっきゃと再会を喜ぶ声が聞こえ、次に里衣を抱き上げた奏士さんがリビングに姿を現した。

「ただいま、里花」
「おかえりなさい。出張お疲れ様」

私は近づいていって奏士さんの頬にキスをした。一週間のアメリカ出張からの帰国だった。渡米する機会は、今は年に一度くらいだけど、この一週間はやはり私も里衣も寂しかった。

「やんちゃな里衣ちゃんは、ママの言うことを聞いていたかな?」
「あいあい」

調子のいい返事をする娘に苦笑いしてしまう。

「全然言うこと聞かないの、このお嬢さん。走って転んで駄々こねて暴風雨みたいよ」
「イヤイヤ期っていうのは噂に聞く以上なんだな」