奏士さんが息を呑むのがわかった。吐息のような声が私を呼ぶ。

「里花……」

交際も結婚も、奏士さんにはたくさん考える時間をもらった。妊娠出産も、ずっと保留のままだった。私はまだ自立した人間になれていない気がしていたし、赤ちゃんを授かることについて以前の結婚のせいかどこかで前向きになれずにいた。
だけど、奏士さんが私との愛の証を望んでいることにもなんとなく気づいていた。はっきり口に出さないのは、優しい彼の気遣い。

応えたい。
不安や寂しさを覚える必要が無いと伝えたいし、これからもっとふたりで家族になっていきたいとわかってほしい。

「奏士さんはどう思う?」
「……俺もほしいよ。里花と俺の赤ちゃん。実はずっと想像してた。可愛いだろうなって」
「私を想って言いださなかったんでしょう?」

私は歩みより、奏士さんにそっと腕をまわした。私はここにいる。あなたといる。このハグで全部あますところなく伝わればいいのに。そんなもどかしさの分を言葉にする。

「赤ちゃんができたら嬉しい。そう思えるようになったの。奏士さんによく似た赤ちゃんに会いたい。奏士さんと子どもと生きていきたいの」