「功輔、正直に話せ」

私の制止を聞き入れずに功輔さんに詰め寄る奏士さん。しかし、功輔さんはその剣幕に動じることなく、けろっとした様子で答えた。

「社長、お早い到着でしたね。今夜の便では?」
「フライト予定の便が変更になったんだ……。そうじゃない!」

功輔さんがやれやれとばかりに嘆息し、奏士さんをぐいと私の方に押しやった。それは上司にする態度じゃない。友人相手にやるくらい雑な態度で、ちょっと面食らってしまった。

「奏士社長、里花さんはお疲れです。あなたがいないので、夜も眠れないほど憔悴してしまっています。大事な恋人をこんなにほったらかして何をしておいでです」

正確に言うと、奏士さんがいないからやつれたわけじゃないんだけど、堂々と彼に責任を追及する功輔さん。きっと、くだらない嫉妬をするなという意味だろう。それが奏士さんにも伝わっているようだ。

「功輔、おまえ」
「俺に嫉妬する前に、愛しい里花さんがやつれていることに気づくべきですよ」

奏士さんがようやく私を見た。私はベンチからよろよろと立ち上がり、奏士さんの腕に掴まって訴える。

「功輔さんは支えてくれただけ。私……少し無理をして、体調が悪くて」
「里花……本当だ。顔色が悪い」

見る間に切ない表情になった奏士さんが、ぎゅっと私を抱き締めた。それから、功輔さんに顔だけ向けて謝った。

「……悪かった、功輔」
「いえ、今も里花さんに話していたんですが、奏士社長は里花さんのことになると我を忘れますからね。気にしていません」

クールな返答に、奏士さんは反省しているのかしゅんと背を丸めてしまった。