捨てられ妻の私がエリート御曹司に甘く娶られるまで

「里花に会いにきた」

奏士さんは私を真摯な視線で射貫く。

「マノンとのことで変な記事が出たが、婚約なんて嘘だ。誤解されたくないと思って。直接会った方がいいと思ったんだ」
「そのためにわざわざ来たんですか?」
「里花だってそうしてくれるつもりだったんだろう?」

真剣な瞳に気圧されて、私は言葉に詰まる。彼は私に会いにきてくれた。やはり記事は憶測の誤報だったのだ。それを真正面から伝えてくれるなんて。

「マノンさんとのこと、事実じゃないって思っていました。でも、マノンさんの方があなたに相応しいって言ってしまったのは私で……。自分に自信がなくて嫉妬深い自分が嫌になりました」

言葉にすると涙が出そうになった。こらえて、真っ直ぐに奏士さんを見つめる。

「だけど、このままじゃ駄目だって思ったの。素直に気持ちを伝えなきゃって。奏士さんに本当の気持ちを言わなくちゃって」
「里花」
「マノンさんを選ばないで。私を選んで。私を奏士さんの恋人にして」

手首を取られ、ボストンバッグが落ちた。そのままの勢いで奏士さんが私を抱き寄せた。背の高い彼に抱きすくめられると、私はつま先立ちになってしまう。

「そのつもりで来た」

奏士さんが私の耳元でささやいた。

「里花を不安にさせるくらいなら、もう待つのはやめようって。強引にでも、俺のものにしてしまおうって」
「奏士さん」

私は彼の背に腕をまわし、しがみついた。こらえていた涙があふれる。