捨てられ妻の私がエリート御曹司に甘く娶られるまで

ふと、スマホがポケットの中で振動していることに気づく。なんだろう、こんな早朝に。奏士さんから連絡だろうか。慌てて手に取ると、沙織さんの名前が表示されている。

「はい、沙織さん、どうしたの?」
『里花さん、まだ日本?』
「ええ、日本だけど」

質問がおかしくて思わず笑った。由朗から聞いたのだろうか。

『飛行機に乗っちゃ駄目! そこにいて!』
「え? なに?」
『奏士社長が……』

沙織さんの声は聞こえていた。だけど、私は途中から声の内容を理解することができなくなっていた。数メートル先に奏士さんが立っていたからだ。

少し髪の毛が乱れているけれど、スーツ姿で、洗練されたいつもの奏士さんだ。私を見つめている。
奏士さんは近寄ってきて、私のスマホを手に取った。沙織さんの名前を確認し、「ありがとう。里花と会えた」と言うと、通話を終え、私にスマホを戻す。

「奏士さん……どうして……」
「里花が昨日俺にメッセージをくれた時点で、俺はもう飛行機に乗ってた。機内のWi-Fiの調子が悪くて、里花からのメッセージが届いたのを見たのはついさっきだ。里花にも一度電話してるよ」

よく見れば奏士さんからの着信もある。どうやら搭乗手続き中で気づかなかったようだ。