「はい、じゃあかんぱーい」

由朗の音頭で私と沙織さんはジョッキを合わせた。中にはレモンチューハイ。ジョッキのぶつかる小気味いい音が響き、私たちはいっせいに冷たいアルコールを体内に流し入れる。
二月の寒い日だけれど、仕事の後のチューハイは美味しいのだと、私は最近知ったばかりだ。今日は三人で居酒屋に来ている。

「適当に頼んじゃうからね。里花さん、鶏のナンコツでしょ」
「うん、ナンコツ大好き。こんなに美味しい物をこの年まで知らなかったなんて損してたわぁ」
「姉さん、大袈裟。まあ、居酒屋自体、俺と沙織ちゃんと来るまで来たことなかったんだもんね」

由朗に言われ、私は頷いた。仕方ないじゃない。女子大時代も、家と学校の往復で、友達と行くのはカフェくらい。バーは行ったことがあるけれど、こういう大衆居酒屋は来たことがなかった。

「居酒屋っていいね。ナンコツとレモンチューハイが美味しい。あと、きゅうりの一本付けとか、ホッケの塩焼きとか……」
「ふふ、里花さんに色々教えたのは私。里花さんの色んな初体験を知ってるのは私。奏士社長に勝ったわ!」

沙織さんがわははと豪快に笑う。
そう、奏士さんが功輔さんを伴って渡米し半年。日本のオフィスに残った沙織さんは、私のいい友人になってくれた。居酒屋もそうだし、ありとあらゆる体験を由朗と三人でしている。