…眠り続けているおじさんに聞こえているわけではないのだけども。
「親父、来たよー」
中に入って、ベッドに向かって普通に声掛けをしたなずなは、リュックを傍の椅子に置いて、まず何やらベッドの周辺を確認しているようだ。
「…あ、ヒゲソリ充電されてる。乱ママ来てったの?…ちょっと。ここにエロ本置いてあんだけど。また木嶋?居眠りこいてる親父がエロ本なんて読めるわけないだろ。あいつ…」
一方的に話しかけて、独り言のようなカタチとなっているが、それもそのはず。
返答が…返ってくるわけないのだ。
周辺に置いてある医療機器の音だけが響いていた。
ベッドの中にいる音宮のおじさんは、可愛い娘の声掛けにも、何一つ反応することなく、すやすやと眠っている。
「……そうだ。親父、今日は伶士を連れてきた。ね?」
「あ、う、うん」
名前を呼ばれて「おじさん…」と呟きながら、横たわるその傍に寄る。
眠り続けるおじさん。痩せこけてはいるが、顔が本当に安らかだ。気持ち良く寝ているみたい。
ホント、こっちの事情も知らないで。



