この沈黙が何故か今回は気まずいというか、嫌な感じがして。
俺は思わず、心の中に押し留めていた思いを吐き出してしまった。
「……ったく。連絡のひとつぐらい寄越せよ。そんな急にフィリピン行くとか言われても……」
いやいや、急な打ち明け話ではない。前もって聞いていたし。心していたことだ。
だが、何となくぼやいてしまった。
……しかし、これがヤツの琴線に触れたらしい。
『だっ、だってっ……』
更に震えている弱々しい声を耳にして、ハッとさせられる。
震える吐息も、電話から微かに聞こえていた。
こいつ、泣いて……?!
いつもとは違う、ただならぬ様子に感情そのままぼやいてしまったことを、後悔した瞬間だった。
「な、なずな……?」
『れ、伶士の声聞いたらっ……れ、伶士にっ……あ、会いたくなるってっ、お、思ったんだよっ……』
「……」
『も、もう辛くてっ……ぜ、全部、投げ出してっ……ダメになるってっ、思ったっ……だ、だからっ、我慢してたっ……』
俺に会いたくなるから、我慢してた……?
わかっていたのに、改めて気付かされる。
こいつとて、そこまで強くない。



