「乱ちゃん、木嶋……拓狼、ありがと……」
「っ……じゃあな、優!」
パパ太夫は、二人を連れて不自然に背を向けてそそくさと病室を出る。
……目には、涙が光っていた。
ドアの閉まった向こうでは、小声の会話が聞こえる。ドアの付近に立っている俺の耳には内容がはっきりと聞こえてきた。
「た、拓狼、あんたはいいのかい……あんたも身内のようなモンでしょ、家族ぐるみの……」
「ええ、いいんです。……正直、俺も乱ママと一緒で、小さな頃からの憧れのお兄さんの最期を冷静に看取る自信がありませんので……」
「そうかい……じゃあ、一緒に行こうか」
「はい……」
足音は、遠ざかっていった。
……最期は、家族で。もちろん、気を利かせたのだろうけど。
パパ太夫らは恐らく、おじさんの果てる姿をとても見ていられなかったのだ。
『俺が終わる、その時まで傍に居て欲しい』
でも、寂しがり屋のおじさんの望みは叶えたいから、離れた場所でおじさんが逝くのを見守る。
おじさんは……なんて、愛されているんだろう。
そう、率直に思ってしまった。



