パッと見た感じ、手足のひとつも欠けることなく、五体満足に残っているようだ。大きな傷も出血している様子もない。
だが、ピクリとも動かない。
生きて……いるのか?
【相殺】が見事に決まって魔力が吹き飛び、静寂の訪れた室内を恐る恐ると歩く。
辺りを警戒しながら、横たわっているリグ・ヴェーダに近づき、そっと顔を覗き込んだ。
「……」
……だが、その変わり果てた顔貌を目にして愕然とする。
血が通っていない真っ白な唇に、開かない瞳。胸郭が動いていなかった。
すっかり変わった顔貌に、黄色味帯びた肌色を見て、もう手遅れなのだと確信する。
「……ダメだったか」
剣軌がゆっくりと歩いて、私のそばにやってくる。
言葉のひとつも出なかった私は、ただ頷いた。
……魔力に取り込まれ飲み込まれかけた状態で【相殺】。
だが【相殺】発動する前に、すでに強大な魔力に当てられて、ただの人間となっていたリグ・ヴェーダは死に至っていたのだ。
ホント、タッチの差だったと思う。
間に合わなかった……。
(……)
……何だろう、この虚しさは。
どうにもやり場のない思いに、複雑になっていた。



