「……でも、お嬢さんが急に【神童】になっちゃって、まさか不意打ち【相殺】してくるとは思わなかった。すごい誤算だよ。魔力が無くなった状態じゃ『器』は無理だねえ。……でも」
何をしようとしているのか、何が起こるのか。
警戒心は強まるばかりで、全然動けない。
ヤツがずりずりと歩いて『核』に向かうのを、黙って見ているしかなかった。
その時、剣軌の身体がビクンと動いた。
「ま、まさか……!」
「『核』を残しておいた理由……こういう使い方だってあるんだよ」
そう言い放ったヤツは、足を止めてチラッと振り返る。
私たちを一瞥して、ニヤリと笑った。
「……なずな、停めろ!」
剣軌の一言で、事の状況を瞬時に察する。
同時に、リグ・ヴェーダは私らに背を向けて水晶鬼の『核』へと身を投げるように飛び込んでいった。
『停めろ』
……剣軌は、今の私の【相殺】で霊力が安定せず力が使えない。
ここは私がやるしかない。
……ただの人間のヤツが、高位魔族の生きている『核』に飛び込んでいったらどうなるか?
ヤツは生きている『核』の餌となるだけ。
一気にその身を取り込まれ、食われてしまう。すなわち『死』だ。



