「…それは、耳が痛いですよ」



【夢殿】の覚醒。

出来るならば避けろと、主上からの命令だった。

…だが、それはあくまでも出来たらいいなという希望であって、指令事項には含まれていないので、お咎めはない。



けど、覚醒したらしたで、こっちの方針も変えなくてはならない。

今後のプランを練り直さなくては…と、唇を結んでいると、目の前にいる天才魔術師さんにいたずらな視線を送られていることに気付いた。

悩んでいる人を傍から見守るのがお好きのようだ。はっきり言って、趣味が悪い。



「…何ですか」

「…何で耳が痛いの?」

「え」



すると、彼はニヤリとずるく笑う。



「…だって、これでマントラが【夢殿】を狙う理由が無くなったでしょ。聖域の力を持つ器に魔族の『核』をぶちこんでごらん?いくらごっつ強い水晶鬼だろうが、瞬殺だよ瞬殺」

「……」

「あぁ、それも見てみたいなぁ…じゃなくて。【夢殿】が狙われることが無くなった。ということは、剣軌くん。君の足枷がひとつ減るのだよ。リグ・ヴェーダに彼を逆手に取られることもない。……これからは、ありのままに君の正義を振り翳すことが出来るのだよ」