それじゃもうここに暮らしていなくても不思議じゃないんだ。


苗字も違うみたいだし。


「この布に穴を開けて外の景色を確認させてくれないか?」


「え? でも校長先生人間の姿に戻ることもできますよね?」


怜美は二宮金次郎が人間の姿に戻ったときのことを思い出していた。


「怜美さん。それは霊によって違います」


猫田さんに言われて怜美は瞬きをした。


「人間の霊感の強弱があるように、霊の力にも強弱がある。花子さんみたいに生前のまま姿を見せるときもあれば、二宮金次郎のときのように、家族と会うことで力が発揮されて生前の姿に戻ることもある」


「それじゃ、飯田校長は……?」


飯田校長は返事をしながった。


代わりに布が内側から膨れ上がり、そこだけビリッと小さな穴が開いて、校長の指が出てきた。


見ると絵画から手だけが伸びて出てきている。


「僕にできるのは、これくらいのことです。かくりよへ戻れば、元の姿になれますけどね」


校長の目は少しだけ寂しそうだ。


怜美は気を取り直して、絵画を胸に抱えた。


こうすれば校長にも周りの景色がしっかりと見えるはずだ。