浩一の父親が病気で死んだのは、浩一がまだ幼稚園の頃だった。


来年には小学校に入学するというときだった。


病院のベッドで青白い顔をして、それでも家族へ向けて微笑みかけている父親の顔は今でもしっかりと覚えている。


病院どくとくの雰囲気と、職毒液のにおい。


それらにまざって糞尿の臭いも微かに残った、浩一からすると少し怖い場所。


隣に立つ母親の手を握りたかったけれど、母親は生まれたばかりの弟を抱っこしていて両手が塞がっている。


だから浩一は逆側に立っている弟の幸太郎の手を握り締めた。


幸太郎の横には、幸太郎の双子の弟、幸助が泣きそうな顔で立っている。


父親の死を間近に感じて恐怖や悲しみを感じているというよりも、やはり病院の雰囲気に気圧されている様子だ。


浩一は身をかがめて、まだ幼稚園にも入っていない2人の体を抱きしめた。


両腕を一杯に伸ばして2人のぬくもりを感じながら「大丈夫だよ。兄ちゃんが守ってやるから」と、呟く。


それから間もなくして、浩一の父親は帰らぬ人になった。