怜美の質問に母親は視線をそらして口ごもった。


10年間探り続けていても、決定的なことはなにもつかめていないのだろう。


「それなのにあの人は、エミが死んだことを受け入れろって言うの。もう10年も経ったんだぞって」


再び苦しげな声を上げる。


あの人とは、きっと旦那さんのことなんだろう。


旦那さんはエミの死を受け入れて前に進み始めているみたいだ。


「あの人はエミを産んでいないから私の苦しみなんて理解できないのよ。だけど私にはわかる。あの子は今も苦しんでいるから、私がなんとかしてあげないといけないの!」


「もうやめてお母さん! 私ちゃんと幸せだったんだから!」


エミが母親を後ろから抱きしめる。


強く強く、抱きしめる。


怜美にはどうすればいいのかわからない。


ただ2人のすれ違っている気持ちが痛いくらいに伝わってきて、もらい泣きしてしまいそうだった。


その時、不意に猫田さんが立ち上がった。


「行きましょう怜美さん」


「え、どこへ?」


思わず普通に聞き返してしまった。


「エミさんの部屋に案内してもらうんです」


怜美は猫田さんの言葉に目をパチクリさせたのだった。