トイレの中は別に変わった様子はなかった。


いつもの見慣れている風景に安心して一歩足を踏み出す。


その瞬間地下室で感じたような冷気が怜美の体を包み込んでいた。


小さな窓から差し込んでいる太陽の光は暖かそうなのに、異常なほどの寒気が走る。


怜美の歩調はゆっくりになり、3つ目の個室の前で立ち止まってしまっていた。


一番奥の個室が閉まっていて、そのオレンジ色のドアに釘付けになった。


ジッと息を殺していると閉まってるドアの向こうからすすり泣きのような声が聞こえてきて、怜美は一瞬飛び跳ねて猫田さんの腕にしがみついていた。


「大丈夫ですよ」


猫田さんは怜美に声をかけてから、優しく腕を解いた。


そして閉まっているドアの前まで移動する。


「トイレの花子さんですか?」


コンコンとノックをして質問する猫田さん。


「はい、そうです」


ぐすぐすと鼻水を啜り上げる音と共に、女の子の声が返ってきた。


怜美は驚いて手洗い場まで後ずさりをしてしまった。


花子さん、本当にいるんだ!


驚愕と好奇心で心臓は今にも張り裂けてしまいそうだ。