「さて、一人目はここにいそうですね」


女子トイレの前で立ち止まり、タブレットを小さく折りたたんでポケットへしまう。


「トイレってことは、まさかトイレの花子さんが出てきたんですか!?」


トイレの花子さんは全国的に有名な幽霊だ。


物語の中でも何度も出てくる国民的アイドル幽霊といっても過言ではない。


そんな人が今ここにいるなんて信じられなくて、怜美の好奇心が膨れ上がっていく。


「トイレの花子さんは沢山います」


「へ!?」


猫田さんの言葉に怜美は裏返った声を出してしまった。


花子さんと言えばおかっぱ頭に赤いスカートをはいた小学生だ。


そんなの定番だった。


「学校のトイレで亡くなるという事故は過去にあちこちで起こっています。閉じ込められたり、病気が原因だったりと様々な理由で。それらがトイレの花子さんというひとつの名前で有名になったに過ぎないのです」


「じゃあ、今ここにいる花子さんは、花子さんじゃないの?」


「そうですね。たいていの花子さんは、本物の花子さんじゃありません。あの人はとっくに生まれ変わって別の人生を歩いていますから」


猫田さんの説明にガッカリしてしまう。


なんだ。


花子さんはすでに花子さんではなくなっているのだ。


「さぁ、行きますよ」


猫田さんはそう言って、女子トイレのドアを開けた。