本当のことはとても言えなくて、嘘をついた。


少しだけ胸がチクリと痛む。


「そうなのね。でも100年も前じゃもういなくなっていてもおかしくはないわねぇ」


おばさんはそう言いながら、買い物へ行ってしまった。


その後ろ姿を見送り、怜美はため息を吐き出す。


最初の家だけでやめておけばよかったのかもしれない。


猫田さんを変に期待させてしまった。


しかし、落胆しそうになったのは怜美だけだった。


猫田さんは何度もうなづき「そうですよね」と、呟く。


自分の願いが聞き届けられないことは最初かわらかっていたという様子だ。


「もう一軒ありますけど、どうしましょうか」


アパートの前で怜美は力なく言う。


3件目だってもうすでに家がなくなっているかもしれない。


家があっても、全然違う人が暮らしているかもしれない。


そうなったとき、猫田さんは更に落ち込んでしまうんじゃないか?


そんな不安を吹き飛ばすように猫田さんは笑った。


「ここまで来たんですから、行ってみましょう」


「え、いいんですか?」


「もちろん。さぁ、住所を教えてください」


猫田さんはそう言い、怜美が住所をメモってきたメモ帳へ視線を移動させたのだった。