有栖川家。

幾つもの子会社を持ち、大蔵家、宝来家と共に三大財閥として名を馳せている。

わたし、有栖川椿はその現当主の第2子として生を受けた。そのおかげで人より贅沢な暮らしを送っている。

もちろんそれには対価が存在した。


「お嬢様」
「何?」


夕食後のまったりタイムに山吹が気まずそうに目を逸らしながら便箋を差し出してきた。


「こんなものが・・・」
「え、お父様から?」
「左様です」


折り目ひとつない白い封筒は朱色の封蝋で封じられている。

毎度有栖川家の当主だけが使える封蝋があしらわれているので、名前が書かれていなくてもこれが父からのものだって分かる。

月に乗るフクロウの模様がそうだ。

フクロウの円な瞳が真っ直ぐ父に見られているようでヒヤリとする。

表にはわたしの名前が丁寧に書かれているが、どう見たって父の字では無い。

父の書く文字はもっと達筆だったはずだ。

どうせまた従者か部下に代筆させたのだろう。想像にかたくない。

わたしの誕生日ですら何も連絡を寄越さない父は、わたしにとって良くない知らせをするときにだけ山吹伝に手紙を渡してくる。