ふたりぼっちの孤城

彼女は寝る姿勢も指定してきた。

腕枕をしてーだとか抱きしめてーだとか。

色々問題があるが、全部母にしてもらっていたらしい。

彼女にはどうしても抗えなかった。

言われた通りにすると、彼女は私の胸に顔を埋めて服をギュッと握りしめた。


「山吹は、いなくならないでね」


その声は震えていた。


「いなくなりませんよ。貴方様が望む限りずっとお傍におります」


だから安心させるように頭を撫でた。


「ほんと?」


服が濡れていくのを肌で感じた。


「はい。お嬢様には嘘はつきません」
「よかったぁ・・・」


彼女は実の母親が亡くなっても涙ひとつ流さなかったという。

幼いゆえ、理解が追いつかず現実を受け止めきれていないからだとばかり思っていた。

でも彼女は母親が亡くなったことを理解していた。

だから山吹"は"いなくならないでと言った。

それなのに彼女が泣けなかったのは、彼女にとって泣ける場所がなかったからかもしれない。

彼女の姉は婚約者の所に頻繁に出入りし、父に至っては愛人と再婚をした。

継母と義妹が心の拠り所になるはずがない。