使用人の間では山吹は「理人さん」、理沙は「理沙さん」とよく呼ばれている。

有栖川家では山吹家の者が何人も雇われているからだ。

だから、柊が山吹を「理人さん」と呼んでも何らおかしなことはない。

わたしが引っかかったのはそんなことじゃない。

わたしの好きな食べ物の話をするような仲だということに引っ掛かりを感じた。


(何か、モヤッとする・・・)


そんな他愛のない会話をする間柄の人が山吹にいるとは思っていなかった。

わたしと一緒でお互いしかいないと、そんな有り得ないことを当たり前だと思っていた。


(そうよね。山吹はわたしと違って顔が広いものね)


他方から膨大な情報を仕入れることが出来るくらいに。

昨日から知らない山吹を見せつけられているようで落ち着かない。

柊が推したオムレツの味は山吹が作ったものの方が美味しかった。当たり前だけど。

わたしの基準が完全に山吹になってしまっている。

こんなタイミングで気づきたくなかった。

車窓から見た空はどんよりと曇っていて、今にも雨が降りそうだった。






「お嬢様お嬢様!今日のおやつはアップルパイです〜!」