今日は鍵の開く音がしなかった。

ということは理沙が来たのだろうか。


「おはようございます、椿お嬢様」


残念ながらわたしの予想は外れた。


「・・・なんで麻生がここにいるの?」
「何か御不満ですか?」
「不満も何も、おかしいわ。だって貴方は杏の専属でしょう?」


わたしを起こしにやってきたのは麻生美子(あそうみこ)。

仲の悪い義妹の専属メイドだ。

父と継母が再婚するまで継母の家で雇われていた経歴をもつ。

杏が小さい頃から専属として仕えているらしく、杏の盲目信者だ。

つまりわたしと相性がこれでもかっていうぐらい悪い。


「はい。ですが本日は椿お嬢様のお世話をするようにとの指示を受けましたので」
「それは理沙からの?それとも杏からかしら」
「答えかねます」
「そう」


どちらの指示にしろ警戒するに越したことはない。

この家で絶対に信用出来るのは山吹だけだが、理沙もまぁまぁ信用してはいたのだ。

でも今回の件で山吹以外は信用出来ないことがはっきりと分かった。