それなら聞くことは一つだけ。


「わたしのこと、見捨てないわよね?」
「天と地がひっくり返る以上に有り得ませんよ」


表現が大袈裟ではないかと思うが、これが山吹の本音だ。

わたしに前に跪き、右手をそっととった。


「私が仕えているのは椿お嬢様です」
「なら、いいわ」


それなら大丈夫だ。

山吹はわたしに酷いことをしないし裏切らない。

山吹が忠誠を誓っているのは他でもないわたしだから。


「私がいない間のお嬢様のお世話は姉に任せる予定ですが、誰だか覚えていますか?」
「えぇ、理沙でしょう」
「はい」


本名は立花理沙(たちばなりさ)。

先に山吹理人を「山吹」と呼び出したので、後から存在を知った理沙を「理沙」と呼んでいる。

一度山吹も下の名前で呼ぼうかと思ったが、本人に「私が椿お嬢様のお隣に立てるようになったらそうお呼びください」と言われ断られた。

苗字が違うのは数年前に結婚をして山吹姓から立花姓に変わったからだ。

山吹家は代々有栖川家に仕えてくれていて、立花家は最近当家の傘下になった。

その関係で理沙とその夫は政略結婚をした。