ふたりぼっちの孤城

頭では上流階級の人間にとってそれが当たり前のことだと分かっている。

でも、今ははっきりと告げられたくなかった。

わたしが婚約してしまうということは、山吹が傍にいられる保証がなくなるということだ。

その可能性を山吹に肯定して欲しくなかった。

不安でワンピースをギュッと掴むと、その手を山吹にそっととられた。

山吹は少し屈んでいて、目線が合う。


「そうなったら、私と逃げ出します?」


それはわたしにとって夢物語のような提案だった。

そう、夢物語。


「いいわね、それ。楽しそう」


山吹とこのままでは居られないことは分かっている。

でも今はまだ夢の中にいてもいいかと思った。

わたしが笑っても、山吹は同じようには笑わなかった。


「・・・本気って言ったら、どうしますか?」
「へっ?」


笑ってはいるが、何故かその目は泣きそうだった。

それに魅入っていると、山吹がいつものようにニッコリと笑い返した。


「なーんて冗談ですよ」


茶化すように言われたが、冗談で済ますことが出来ないくらい、さっきの目は本気だった。