ふたりぼっちの孤城

今更それ如きでわたしが腹を立てたり傷ついたりするわけがないが、篠原夫人が代わりに眉をひそめた。


「実の娘に対してお前如き、ですか?」
「あいや、これは」


夫人の威厳に満ちた態度に父がたじろぐ。

いくら父が三大財閥のひとつを率いる有栖川家の当主と言えど、長年社交界に君臨していた夫人には敵わないようだ。


「事を大きくしたくなければ、こちらの書類にサインして貰えないだろうか」


父の動揺を篠原様が見逃すはずがなく、すかさず書類を父の方に寄せた。

父にはもうなすすべがなかった。






「ビックリされましたか?」
「ビックリするに決まってるでしょ!?何で篠原夫妻がいたの!?何となく察しようと思ったけど意味わからないことだらけよ!!」


自室に戻るなりわたしにそれを聞いてくる山吹を壁においやった。

ビックリしたに決まっている。

そこらのありきたりなドッキリよりこちらの方がタチが悪い。

そもそもわたしがあの場でずっと混乱していたらどうするつもりだったのだろうか。

あの場で説明してくれていたのか。

それとも、わたしならちゃんと状況が理解できると信頼していたとか。