ふたりぼっちの孤城

山吹は今までわたしに献身的だった。

もう解放するべきなのだろう。山吹のために。

何の能力も持ち得ないわたしにはこれしか方法が思いつかなかった。


「・・・失礼、します」


山吹は絞り出すようにそう言って去っていった。

他に訊きたいことや言いたいことがあったはずなのに。

これは山吹の弱さだ。わたしの命令に逆らうことが出来ない忠誠心から来るもの。

いなくなる背中を見つめ、山吹がドアを閉める音すら噛み締めた。





てっきり山吹はわたしの元を去ると思った。

だが予想に反し山吹はわたしの専属侍従のままだ。

直接的なわたしの世話は理沙が行っているが、料理の味は山吹の作ったそれだった。わたしが山吹の味を間違えるはずがない。

たったこれだけで泣きそうになった。

山吹がわたしから離れることを望んだくせに、まだ仕えていてくれることを喜んでしまう。

あまりにも勝手すぎて自己嫌悪に陥る。

そしてわたしは山吹の存在の大きさを改めて実感することとなった。