そのせいで彼女に余計な心配をかけた。

あれは嫉妬だろうか。

だとしたら嬉しいと思う反面、それに対する罪悪感も出てくる。

彼女が悲しい思いをしたのに嬉しいと思うなんてどうかしている。

雑念を振り払うように廊下を突き進み自室へと戻った。

必要な資料を作らなければ。彼女をお守りするために。





数日後。

彼女が学校に行っているときに事を起こした。

試験の振替休日で屋敷にいる、彼女の義妹である杏の部屋に出向き、1枚の紙を突きつけたのだ。

有栖川杏を柊弥生の兄、柊あぐりの婚約者に据えるという、御当主のサイン入りの紙を。


これは前々から計画していたもので、4日間の一日を使い柊あぐりとコンタクトをとったのだ。

そこで容姿と頭脳だけは中の上をいく杏の姿絵と学歴を提示するとふたつの返事で了承してくれた。

柊あぐり自身、彼女との婚約を白紙に戻されて以来、希望をそぐわない婚約者候補を抱えており困っていたから助かったという。

もちろんそれは知っていた。知っていたからこそ今回のことを持ちかけたのだ。

彼女との婚約を潰したのは私なので感謝される言われは無いが、わざわざ波風を立てる必要はないので黙っておいた。

杏の性格についても伝えなかった。