少し目線を移動させれば、その先にあるのは骨ばった男性らしい手でハンドルを握り、慣れた手つきで運転する裕一郎の横顔。そして、たまに鼻腔をくすぐる香水らしき甘い匂い。そんなものをほぼゼロ距離とも呼べる近さで浴びせられているのだから、「落ち着け」と言う方が無理な話だろう。


(な、何か……! 話題、話題……っ!!)


 しかし、いつまでも鼻呼吸を繰り返し黙り込んだままでいるわけにはいかない。きっと裕一郎を退屈させてしまっているはずだ。
 そう考えた恋幸が小さな脳みそから必死に絞り出したのは、


「あっ、あの……いい車ですね!!」