僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい


「蓮夜、顔料以外のものも見るよな?」

「はい。店中を回りたいです」
 俺の返事を聞いて、紫月さんは嬉しそうに口元を綻ばせた。

「それならゆっくり、店を回ろう」
「はい!」
 声を上げて俺は頷いた。

「案内いたしましょうか?」
「いえ、大丈夫です」
 紫月さんが首を振る。
「かしこまりました。では、どうぞゆっくりご覧ください」
 そう言うと、店員さんは笑って去って行った。

「蓮夜、夕食何がいい?」
「画材屋にいるのにご飯の話ですか?」
「ああ。また連夜のお母さんに連絡できてないから」
 確かにそうだ。
「んー、軽いものがいいです。ガッツリ系はちょっと」
 朝食も昼食も量が多かったし、焼肉やしゃぶしゃぶみたいなたくさんの量のものは食べたくない。

「あはは、それは俺もそう。片手で食べられるものの方が良いよな。そしたら、パスタとか?」
「それ夜ご飯になります?」
 紫月さんの提案に俺は苦笑いをする。

「そこなんだよなー。 あ、串焼き食いに行くか?」
「串焼き?」

「ああ。焼き鳥二本で三百五十円の串焼き屋。焼肉みたいに一度の注文で大量の肉が来ないから、自制できるんだよ」

 自制できるのはいいな。それに、串焼きなら片手でもきちんと食べられそう。

「行きたいです」
 俺の返事を聞いて、紫月さんは満足げに頷く。
「よし、決まりだな。あと蓮夜、クローゼットのことって、どこまでなら話せる? 全部はもちろん話さなくていいけど、ある程度は伝えた方がいいと思う」

 つい顔を伏せる。

「……手足縛られて閉じ込められたこと、くらいまでなら」

 紫月さんの耳元に顔を寄せて、細い声で言う。

「そこまで言えれば十分だ。蓮夜は強いな」
「え?」
 目を丸くして、紫月さんを見る。
「強いよ、蓮夜は。あんなこと全部言えなくたって誰も責めないのに、そこまで話せるんだから」
「そんなことないです」
 俺は弱い。俺はいつだって姉ちゃんの言いなりだ。俺が強かったら、きっと、クローゼットに閉じ込められることもなかった。
「いや、強い。すげえよ、蓮夜は」
 首を振って、誇らしげに、紫月さんは笑った。