僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい


 薄い長袖のパーカーに、ネックウォーマー、柄物や無地のシャツ。それにチノパンやスキニー、ジーンズなど、紫月さんは俺のために十着くらい服を買ってくれた。下着も、靴や靴下も買ってくれて、俺は少し申し訳ない気持ちになった。

 紙袋を持っている紫月さんの後を追って、服屋の駐車場に向かって足を進める。駐車場は、服屋の目と鼻の先にあった。

「こんなに買ってよかったんですか?」
 紫月さんの隣に行って、紙袋を見る。紙袋には、隙間なく服が入っていた。

「ああ。少なくともあと五日は旅行するんだから、これでもまだ足りないくらいだ」

 紫月さんが歩くのをやめて、俺の姿を見る。
「なんですか?」
「やっぱり似合うな、その服」
 紫月さんが得意げに笑う。

 俺は今、薄手の黒い無地のシャツを着て、白いスキニーを履いている。紫月さんの服がダボダボだったから、買ってすぐに、試着室で着替えたんだ。
 このシャツとスキニーは店員さんじゃなくて、紫月さんが選んでくれた。シャツと髪色が同じだし、黒ならあざが透けないで済むから、いいと思ったみたいだ。俺は下半身より上半身の方が痣や傷が多いから、ズボンは別に白でも問題ない。

「選んでくれてありがとうございます。俺、最近全然服屋行ってなかったので、選んで貰えて、すごく嬉しかったです」

「そんなこと言われると、もっと買ってやりたくなる」
 紫月さんが踵を返して、もう一度服屋に入ろうとする。

「も、もう十分ですよ。紫月さんは俺のために金を使いすぎです」
 慌てて紫月さんの腕を掴んで引き止める。

「そんなこと考えなくていい。俺は蓮夜を甘やかしたいんだ。何が欲しい? お前が欲しいものだったら、何でも買ってやる」
 そんな風に言われるのなんて虐待をされる前以来だ。言われるのが久しぶりなせいで戸惑いがすごくて、全然案が浮かんでこない。どうしよう。

「今は思いつかないので、思いついたら買ってくれますか?」
「……蓮夜、画材屋行くか?」
「い、いいです」
 ブンブンと首を振る。
「行って見るだけでもいい。本当に欲しいものがなかったら買わないから。それなら別にいいだろ?」
 いいのだろうか。
「蓮夜、行きたいか? それとも、行きたくないか? 姉のことは考えないで、それだけ考えろ」
 俺の胸に人差し指を当てて、紫月さんは唇の端を上に上げた。
「……行きたいです」
「おし! よく言った。どうせ行くなら広いところにしよう。とっておきの場所に連れて行ってやるよ」
 紫月さんが首にかけてあったストラップの先にある鍵を、車の鍵穴に入れた。